間違いだらけのゴルフクラブ選び
ゴルフクラブとシミュレーション技術
ゴルフクラブの開発を取り巻く環境は、他の業種と同様にシステム化されてきました。特にコンピュータによるシミュレーション技術は、ゴルフクラブの開発に大きな変革をもたらし、その技術の底支えの元に、様々なゴルフクラブが開発され続けています。確かにコンピューターシミュレーションは進んでいます。その精度は著しく向上していると言えるでしょう。しかし、ただデジタル的なものだけで新商品が開発されているわけでなく、実はまだまだ意外とアナログの部分が多い世界だと言えます。
私はヤマハ株式会社で約7年間、ゴルフクラブの開発から設計、工場での生産立ち上げ、ディーラーへのプレゼンテーション、大型量販店での販売応援まで全てを経験しました。ヤマハでは担当したモデルに関しては、ヘッド、シャフト、グリップの部品全ての選定を任されました。例えばミズノなどは担当が細分化して、グリップの担当者はグリップのみ、シャフトの担当者はシャフトのみで、他のパーツにはノータッチというのが一般的でしたが、ゴルフクラブの部品に関係する全てを、一括して経験できたのは幸運と感じています。
その経験を元に言うと、ゴルフクラブの開発は、本当に難しいことであると言えます。それ故に、これだけシミュレーション技術が進化しても、いまだゴルフクラブの完成形となるものは世に出ていないわけです。もともと、もっといいものを…と終わりなき追求でもありますし、高反発規制などの技術的の制約を受けるなどもして、技術開発はまた新たな局面を迎えている真っ直中にあるような状況です。
確かにコンピュータによるシミュレーション技術は、開発のスピードを飛躍的に短縮しましたし、開発コストも削減しています。スイングロボットに関する技術も進み、私が2005年にPING社のUSA本社工場へ行く機会に恵まれた時に見せてもらった最新スイングロボットは、上手に人間の動きを再現していましたし、弾道のシミュレーション技術の発達にも驚きました。
しかし、こんな環境でも「最終的にはヒューマンテストが最も大切であると」説明していたPING社にはとても共感することができました。私も、人間が打ってなんぼという考えなので同感です。
ゴルフクラブの開発は、答えのない奥深いブラックホールの中での作業に似ているのかもしれません。
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