間違いだらけのゴルフクラブ選び
アンサー型パターはアイディアか、偶然か
私は開発者として様々な経験をしてきましたが、行き着くところは発想と実験でした。ゴルフに限らず、今、世の中にある様々な技術は、先代の技術者達が様々な発想の元に作り上げてきたものばかりです。
例えば、現在のパターの主流となっているPINGアンサー型パター、またアイアンのキャビティ構造の元祖を作ったPING社の創業者、カーステン・ソルハイムは、GE(ジェネラル・エレクトロニクス社)に勤務し、この頃ゴルフと出会った、いわばサラリーマンゴルファーでした。彼はGEに勤務の傍ら、自分のパット数を減らす為に、多少のミスに寛容で、かつ、まっすぐに転がるパターはできないものかと研究を重ねた結果、ヒール側とトゥ側に重量配分を分散させることを特徴とする、ピン型パターを完成させました。その後、このヒール&トゥウェイトのコンセプトをアイアンにも採用し、1969年に発売したのが、キャビティバック・アイアンの元祖、Karsten I(カーステン1)でした。
彼は、なにもないところからこの発想を導きだし、それを形にして普及させました。その頃に今のようなコンピュータ技術、シミュレーション技術があったわけではありません。むしろ何もなかったからこそ、自由な発想でこのような技術を生み出すことができたのかもしれません。
現代には様々な技術が溢れています。開発技術に携わる者達の活躍の場には、このようなサポートツールがたくさん用意されています…が、革新的な技術はあくまで突然に、そして個人技から生まれてくることが多くあります。ある一定の条件下でもっとも効率的な物を作れる技術者は多くいても、様々な枠組みを外れたところで突飛な発明をできる技術者というのは、そう多くはありません。
一方で、突然の技術革新に大きく貢献しているのが「偶然」です。例えば接着剤の接着原理は未だ明確には解明されていないと聞きます。接着剤メーカーは、これとこれを混ぜて何℃(度)にしたら、きっとこうなるかもしれないという経験則の元、様々な物質を作り出し、物と物を実際にくっつけてみるという、実験の繰り返しだそうです。あの瞬間接着剤も偶然の産物であって、それを作ろうとして作り出したわけではない。
なんとなく笑えるような、驚くような、がっかりするような話ですが、ゴルフクラブもけして近からず遠からず・・・。意外と現実はそういうものなのです。
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